今まで「自分らしいキャリア開発」について、個人視点と集団(組織)視点の2つの視点から、またそれぞれ形(目に見えるもの)と心(目に見えないもの)のアプローチに分けて考えてきました。
今回は、大きな視点から考えてみたいと思います。「自分らしいキャリアを自ら探す」というよりは、そもそも私たちが与えられた使命(ミッション)があるのではないかという視点で、自分たちのキャリアについて思考を深めていきたいと思います。
私たちの使命とは
仕事の意味を考える上で、以前にお話しした「煉瓦積み職人のたとえ話」を再度振り返ってみたいと思います。
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煉瓦積み職人のたとえ話
(この話に出てくる三人のレンガ職人は、三人とも『レンガを積む』という、全く同じ仕事をしています。)
旅人が3人のレンガ積み職人に出会います。
・1人目のレンガ職人
「見ればわかるだろう。レンガ積みをしているんだ。朝から晩まで、俺はここでレンガを積まなきゃいけないのさ。雨の日も寒い日もどんな時も一日レンガ積みさ。体もボロボロさ。」
・2人目のレンガ職人
「オレは、ここで大きな壁を作っているんだ。これがオレの仕事でね。この仕事のおかげで俺は家族を養っていける。」
・3人目のレンガ職人
「歴史に残る偉大な大聖堂をつくっているんだ。ここで多くの人が祝福を受け、悲しみを払うんだぜ!素晴らしいだろう!」
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一人目の職人は「ライスワーク」をしています。ご飯(ライス)を食べるために働いています。
二人目の職人は「ライクワーク」をしています。その仕事が好きで仕事をしています。
三人目の職人は「ライフワーク」をしています。仕事とプライベートは分けず、自分の使命と思える仕事で働いています。
自分が主体的に生きることは大切なのですが、就業観を考える時、一種の天命(calling)とか召命という視点で考えることが重要なのではないかと思います。
タレントの明石家さんまさんのお話しを紹介したいと思います。
もう20年ほど前のこと、さんまさんのファンの女性がさんまさんにどうしても会いたかったのですが、諸事情で許されなかったとのこと。どうしてもその気持ちを伝えたくて、違法とは知りつつ、いつかさんまさんの元に届くのではと期待して、お札に自分の気持ちを書き、買い物の際にそのお札で支払ったそうです。
そのお札は、奇跡としかいえませんが、巡り巡ってさんまさんの手元に届いたようで、彼は長い間財布の中にそのお札を持っていたとのことです。
「お札に託してまで気持ちを伝えようとしてくれたファンが一人でもいるなら、頑張らなあかん。」
これがさんまさんの大きな励みになったそうで、これも天命を感じさせるエピソードです。
これらのエピソードに共通して言えることは、自分のキャリアや生き方を考える際に、同時に他者の笑顔や幸せが浮かんでいることかと思います。
キャリアの定義を今一度再掲します。
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キャリアの定義(武田)
自分自身に与えられたタレント(能力・個性)を、いかに自分と他者の幸せと成長に活かしていくか、その歩み方自体のこと。
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私たちの使命とは、まさしく自律的に自分のキャリアを開発していくことに他ならないのだと思います。
また、この不条理な世界を「負」としてのみ受け止めてしまうと、自分らしいキャリアを開発していくことは難しくなってしまいます。
艱難の中にある時、その環境をある意味で試練として受け止め、苦しい自分をどこかでそのまま受け止めることも必要です。そして、その意味を正しく問うことにより、本当のキャリアが見えてくるのだろうと私は思っています。
■執筆者プロフィール
武田 宏
日清製粉グループオリエンタル酵母工業にて海外貿易業務に従事。その後同社にて人事制度改革プロジェクトに参加し、「人」という経営資源のあるべき姿について学ぶ。2001年株式会社ニッペコに入社。海外企業(独)との資本・業務提携のプロジェクト遂行、人事・経理・情報システム等の管理部門責任者を経て、現在は人材育成・社員相談業務を主とするキャリア支援室室長を務める。合わせて社長付として経営補佐の任も担う。
支援人事、キャリア開発支援に携わり15年が経過。現職の傍ら、現在放送大学大学院にて臨床心理課程で「心」を学び、組織視点だけでなく個人視点での成長にコミットできるよう研鑽を重ねている。2020年よりタラントディスカバリーラボ代表、㈱セイルコンサルタントとして、キャリア開発支援活動を開始。