前回のコラムで近年のキャリアの考え方がどう変化しているのかについてご紹介しました。「組織内キャリア」ではなく「生涯キャリア」という考え方に変化している中、どのようなスタンスで自分らしいキャリアをつくっていけばよいのか、考えていきます。
ワークライフについて
ワークとライフについて考えてみましょう。
世間一般では、「ワークライフバランス」という言葉が使われています。この言葉は、昭和の時代の「仕事中毒者」を揶揄するような響きがあり、ワークだけでなくライフも大切に、という意味で使われることが多いです。
現実に、夫婦共働きの比率が全夫婦世帯の8割になろうとしている今、家庭内の役割分担をまともにできないパートナーは淘汰されていくのは当然のことでしょう。職場で、いきなり当日にアフター5の誘いをしても、多くの社員がそれに困惑していることを、年配の社員はもはや気づくべきです。共働き世帯にとって、ワークもライフもどちらも日々の大切な要素なのです。
でも、ワークとライフは、「バランス」を取るものなのでしょうか?
私は、ワークとライフは別物というよりは「統合」して捉えるもの、という視点で考えたいと思います。これはキャリアの学びを続けてきた中で、慶応大学の花田教授に教えていただいたことです。
ワークだけでは、時には煮詰まってしまうこともあるでしょう。けれども家庭の中での役割を果たすことによって、落ち着きを取り戻すことも可能です。保育園に子どもの迎えに行って子どもの顔を見たときに、仕事上で嫌な出来事があったとしても忘れてしまう、そんなこともあるかと思います。逆に家庭内で問題が起こったとしても、会社に来ればそれを忘れて仕事に没頭できる、ということもあるでしょう。また、ライフの世界で培った人脈や、損得を度返しした幅広い人間関係などが、自分のビジネスパーソンとしての幅を広げる原動力にもなるかと思います。ワークとライフは統合して考えるときに、自然と相乗効果が生まれてくるものと考えます。
良い習慣は才能を超える
前回のコラムでも触れましたが、自分らしいキャリアをつくるために、キャリアのオーナーシップを自分に取り戻すこと、そのために学びを継続すること、そしてアイデンティティの再確立を意識しながら歩むことの大切さについて提示させていただきました。では、その道程ではどのような姿勢が好ましいか、申し述べたいと思います。
ある例題を設定します。いま現在、100という能力を持っているAさん、Bさん、Cさんがいるとします。Aさんは毎日0.1%ずつ、Bさんは毎日0.01ずつ成長しますが、Cさんは成長しないと仮定して、成長の進展を数字で確かめてみたいと思います。
この場合、次の日のAさんの能力は100.1に、Bさんの能力は100.01に、Cさんは変わらず100となることはお分かりのことと思います。これを毎日繰り返していくと、1年後、3年後、10年後にはどのようになるのか、図1をご覧ください。10年後の数字がこれだけ大きな差となって表れることは驚きですね。
このことは、たとえ日々の成長の差は僅かであっても、日々積み重ねることによって大きな差が生まれることを意味しています。生まれ持った才能はどうしても変えることできません。でもその才能ですら、日々の努力で超えることも可能であるのです。
そして「努力」に対するスタンスも大切ですね。一般的には「努力」は辛くてしんどいもの、というのが定番ですが、習慣になるとそうでもなかったりします。物事を「形から入る」という言い方をしますが、ルーチンになっているものは作業前には気が重たかったりするものの、作業しはじめると段々とエンジンがかかってきます。これは「作業興奮」というもので、人間の脳の一つの習性です。
また、人によっては努力を努力と思わないようなタイプの人間もいます。だれでも自分の好きな趣味やスポーツについては、時間を忘れるくらいに軽く動くことができます。それが結構辛いことでも、辛いと感じない。すなわち「努力の娯楽化」という世界です。私もバスケットボールの練習をするときには、同じような現象が起こっています。コートの上で走り回りますから身体は辛いはずなのに、気持ちの上では楽しんでいる自分を感じます。
同じ努力をしていても、それを辛いと思いながらやっている人と、平気でできる人、楽しみながらできる人では、最終的な成果は大きく違ってくるでしょう。ですから、自分の嫌いなこと、不得手と思っていることよりは、自分がやりたい、好きと思っていることを伸ばす方が、断然成果に繋がりやすいわけです。
いずれにしても、「良い習慣は才能を超える」ということを意識して、日々自分自身の成長に向き合うスタンスが、自分らしいキャリアを創っていくときの大切な要素であると思います。
■執筆者プロフィール
武田 宏
日清製粉グループオリエンタル酵母工業にて海外貿易業務に従事。その後同社にて人事制度改革プロジェクトに参加し、「人」という経営資源のあるべき姿について学ぶ。2001年株式会社ニッペコに入社。海外企業(独)との資本・業務提携のプロジェクト遂行などを経て、現在は人事・経理・情報システム等の管理部門の責任者として経営補佐役を務める。
支援人事、キャリア開発支援に携わり15年が経過。現職の傍ら、現在放送大学大学院にて臨床心理課程で「心」を学び、組織視点だけでなく個人視点での成長にコミットできるよう研鑽を重ねている。
2020年よりタラントディスカバリーラボ代表、㈱セイルコンサルタントとして、キャリア開発支援活動を開始。