HRBPという言葉と企業の役割を知っているでしょうか。HRBPとは、「Human Resource Business Partner」の略称であり、経営者や事業責任者といった経営目線で、戦略の実行を人や組織の面から支えるパートナーという位置づけです。経営層の思考を深く理解し、ビジョンを共有した上で事業成長のための問題解決をしていく役割があります。
近年の世界情勢の移り変わりは想像以上に早く、新型ウイルス感染症などによるリモートワークやAI導入などの影響も企業にとっては著しいものとなっています。その中で、HRBPが企業において重要なポジションとなっているのです。
HRBPに求められること
「攻めの人事」を掲げる企業も多くなってきましたが、具体的に「攻めの人事」とはどのようなものでしょうか。曖昧な言葉では、具体的な戦略をアクションまで落とし込むことは難しいのが現状です。HRBPは、「攻めの人事」を具体化した施策の一つとも言われています。
ここでは、HRBPに求められる2つの要素を説明します。
1.戦略人事
先に、HRBPについて「経営目線で人事的側面から戦略の実行を支える役割」と銘打ちましたが、HRBPに求められるものは戦略人事です。
具体的には、経営目標や事業計画などに深くかかわり、人事活動の大本を経営者目線で行うという点で、例えばオペレーション主体の人事とは求められる視点や動きが異なっています。経営戦略や組織改革などを実現させるためには、人事と経営の両方の意識と視点が必要となります。
2.タレントマネジメント
タレントマネジメントとは、必要な制度や計画を整備するための体制づくりです。組織内での人材管理から育成までを効率的に行えるよう、環境整備は重要です。また、その実行のために採用・教育・リーダー育成という、企業の強い基盤を人で構築していく役割も担っています。
HRBPの役割
アメリカの経済学者デイビッド・ウルリッチが提唱したHRBPは、人事機能の4つの役割で構成されています。ここでは、4つの役割について、個々の役割のポイントを説明します。
1.戦略実現パートナー
まずは、経営者の視点に立って、企業が求める目標値や計画を実現させるために人事戦略を考案・実行する役割が求められます。教育はもちろん、個々の人員配置・人事異動という人事活動が必要になります。
2.管理エキスパート
人事管理や労務管理という管理側のエキスパートとしての力が発揮されるのも一つです。人事制度や人事施策を管理して、生産性の高い運営や効率的に回るように運用していく役割が必要なスペックと任務になります。
3.従業員チャンピオン
経営者に近い立場で行うミッションであり、その経営層と従業員の橋渡し役が、HRBPに求められます。小規模企業であれば、経営層と従業員が直接話せる環境もありますが、規模が大きくなるにつれて、その接点が少なくなったり、その機会が無くなる事は容易に考えられます。如何に連携するか、従業員の立場で考え、経営側との調整も必要です。
4.組織改革
組織改革のために必要なことは、大きく2つです。まずは、従業員の意見を抽出することです。さらに、意見としては「良い点」と「改善すべき点」の両方を引き出す必要があります。逆に、経営者側の考えや決定を従業員に伝達・浸透させることも求められます。
”人事職” ”人事担当者”との違い
まずHRBPは、人事のひとつの機能です。人事機能は、下記のように大きく3つに分けられます。
①給与計算や入退社手続き、勤怠管理などのオペレーション
②労務制度や人材開発、採用などの設計、運用
③経営目線での戦略立案、実行
人事職や人事担当者は、本来この3つの機能全てを担当することを意味します。
ですが、各企業によって担当する範囲にばらつきがあるのが現状です。例えば、3つ全てをこなしている人事担当者もいらっしゃると思いますし、①のオペレーション業務をメインで担当している方もいるかと思います。
HRBPは、上記の機能の③の戦略立案及び実行に特化しています。②の設計や運用に関わることもありますが、それは経営戦略や組織改革のための手段であり、あくまで目的は企業がさらに成長するための施策推進です。
HRBP導入を成功させるポイント
HRBPの理解や浸透は進みつつあり、導入する企業が少しずつ増えている段階です。ただし、正確なHRBPではなく名称のみが独り歩きしていることも多々あります。実際に導入におけるポイントを抑えておきましょう。
信頼関係の構築
HRBPは各部門・部署からの「ニーズに対する解決」を積み重ね、信頼関係を構築する必要があります。
信頼関係が不十分であると、正確な情報や意見も集められず、本来のミッションを推進することが困難となります。
部分的に取り入れてみる
外部の人材がHRBPを担当する場合は、身構えてしまう社員がいたり、既存の人事部門が拒絶反応を示すこともあります。加えて、既存の人事部門が経営課題解決のためのアクションに対応しきれないということも考えられます。この場合は、小さな課題解決から取り組む「慣らし運転」が有効です。
まとめ
HRBPを導入したい企業、そしてHRBPとして活躍したい方にとっては、初めから全てを組み込んだり、新規施策としてのHRBPを大々的に前面に出していくよりも、「部分最適」という考えからスタートしてもよいでしょう。
実例として、大手企業においても「部分最適」の導入事例があります。「現場経験が豊富かつ問題解決力を有する」という既存社員を選出し、まずは現職と兼務でHRBPに任命したのです。初期の段階では、緊急性が高く重要度の低い問題解決をミッションとしてクリアにしていき、徐々にHRBP専任者としてシフトしていったという事例があります。
いずれにしても、認知・実績の積み重ね・信頼獲得により、HRBPが社内の中核として活動することで、企業目標の具現化が実現していきます。