「ジョブ・クラフティング」という言葉を聞いたことはありますか?
ジョブ・クラフティングとは、従業員一人ひとりが仕事の捉え方や進め方、仕事関係者とのコミュニケーションなどを、主体的なものに変えていく手法のことです。聞いたことはあっても「そもそもジョブ・クラフティングをよく知らない」「実施するメリットが分からない」人も多いと思います。
そこで今回はジョブ・クラフティングの定義や企業が実施を支援するメリットなどをお伝えします。
ジョブ・クラフティングの定義
ジョブ・クラフティングとは、従業員一人ひとりが仕事にやりがいを持ち、生き生きと自分らしく働けるように導く手法です。厚生労働省が発表した資料によると、ジョブ・クラフィテングを実施するためには、3つの観点で考える必要があります。参考:「働きがい」をもって働ける環境の実現に向けた課題について
1.作業クラフティング
仕事の内容を見直したり、取り組み方に工夫を加えることで、より充実した仕事をできるようにします。
(例)
- 優先順位をもとにスケジュール管理を行う
- 普段使用しているToDoリストを見直す
- 勉強時間を確保する
- 必要性の低い仕事を断り仕事量を調整する
2.人間関係クラフティング
上司や同僚、取引先のクライアントなど、仕事で関わる周囲の人とのコミュニケーションを工夫して、良好な人間関係を築きます。
(例)
- 職場の先輩にアドバイスもらう
- 後輩が相談しやすい環境をつくる
- クライアントとのコミュニケーションを増やす
- 普段関わりのない他部署の人と人間関係を築く
3.認知クラフティング
仕事の目的や意義を考え直したり、仕事を自分の興味関心に結びつけることで、やりがいを感じながら取り組めるようにします。
(例)
- 仕事のやりがいを考え直す
- 自分の仕事が将来にどんな意義を与えるのか考える
- 今の仕事は誰のためにやっているのか考える
- 自分の興味関心を仕事の中に取り入れる
ジョブ・クラフティングとジョブ・デザインとの違い
ジョブ・クラフティングと似た言葉に、ジョブ・デザインがあります。ジョブ・クラフティングとジョブ・デザインの大きな違いは、「主体が誰にあるか」です。
ジョブ・デザインは、マネジャーや組織が働きがいのある仕事を設計し、従業員に割り振ります。主体はマネジャーや組織です。反対にジョブ・クラフティングは先述通り、従業員が主体になります。
ジョブ・クラフティングが注目されている理由
なぜ今、ジョブ・クラフティングが注目されているのでしょうか?
大きな要因として、従業員の価値観が変化したことが挙げられます。上司から言われたことをただこなすだけの機械的な作業を拒み、自ら考えて仕事をこなしたい人が増えてきました。
そのため、従業員が生き生きと自分らしく働けるように導く、ジョブ・クラフティングに注目が集まっています。
ジョブ・クラフティングを企業が支援するメリット
ジョブ・クラフティングは個人で行う手法ですが、企業がジョブ・クラフティングを支援するメリットは3つあります。
企業の生産性が向上する
社員のモチベーションの高さは、企業の生産性の向上に繋がります。ジョブ・クラフティングを活用すると、仕事そのものに意義を見いだせるので、社員は高いモチベーションを保つことができます。モチベーションの高い社員は、パフォーマンス能力も高いので、おのずと企業の生産性向上に繋がります。
離職率の低下に繋がる
自分の仕事に満足している従業員は、離職率が低い傾向にあります。「仕事は生活費を稼ぐためだけ」「自分がスキルアップすればそれでいい」と、仕事内容に意義を見いだせない従業員は、他に良い条件の仕事があれば、離職する可能性があります。ジョブ・クラフティングを活用し、今の仕事にやりがいを感じることができたり、充実した人間関係を構築することができれば、従業員の離職率を下げることに繋がります。
良好な人間関係を築くことができる
仕事上の人間関係で悩んでいる人も多いのではないでしょうか?意見交換がしにくい雰囲気や、社員交流がほとんどない職場だと、必然とモチベーションは上がりませんよね。ジョブ・クラフティングを活用することで、積極的に他者とコミュニケーションをとったり、自分や他者が働きやすい環境をつくる意識が芽生えると、良好な人間関係を築くことができるでしょう。
ジョブ・クラフティングの実施方法
慶應義塾大学総合政策学部の島津明人教授が発表した資料をもとに、ジョブ・クラフティング の実施方法をご紹介します。
1.講義
ジョブ・クラフティングの目的や期待される効果を紹介します。2.事例を用いたワークショップ
架空の事例を用いて、どのようにジョブ・クラフティングを活用するべきか、参加者同士で意見を交換します。
3.ジョブ・クラフティングの計画を練る
個人個人で現在行っている業務を3つ挙げて、どの程度ジョブ・クラフティングが出来ているか評価します。その後、グループワークで意見を共有し、ブラッシュアップしていきます。
4.計画カードを作る
約1ヶ月の間に実施するジョブ・クラフティングの計画を立て、「何を・いつ・どこでするか」を落とし込んだ計画カードを作ります。
参考:ジョブ・クラフティング研修プログラム 実施マニュアル
ジョブ・クラフティングを実施する際の注意点
ジョブ・クラフティングを実施する際の注意点は、3つあります。
- やりがい搾取をしない
- 仕事が属人化していないか確認する
- チームワークに影響を及ぼさないか確認する
注意点をしっかり把握した上で、ジョブ・クラフティングを行いましょう。
やりがい搾取をしない
やりがい搾取とは、「やりがい」を理由に労働に見合った賃金を支払わず、不当に従業員を働かせることです。ジョブ・クラフティングの主体は、従業員自身にあります。会社や上司が「やりがい」を押し付けないように気をつけましょう。
仕事が属人化していないか確認する
属人化とは、特定の社員だけが業務を担当することで、当人以外はその業務の内容について把握していない状態のことです。ジョブ・クラフティングを実施する前に、仕事に関する情報の共有が必要になります。
チームワークに影響を及ぼさないか確認する
従業員が主体的に働けるようにするジョブ・クラフティングですが、個人を尊重しすぎると周りに影響を及ぼす可能性があります。案件やプロジェクトによって、ジョブ・クラフティングを導入するか否か検討しましょう。
まとめ
ジョブ・クラフティングとは、従業員一人ひとりが仕事や人間関係を見つめ直し、仕事にやりがいを感じることができるように導く手法です。主体的に働く社員が増えると、離職率の低下や企業の生産性向上など、企業側にもメリットが生まれます。
ジョブ・クラフティングはメリットが多いものの、やり方を間違えるとやりがい搾取やチームワークの乱れに繋がります。組織に合った方法を検討して、ぜひ実践してみてください。