本コラムでは、当社コンサルタントの武田が、「キャリアエッセイ2~自分のミッションを求めて~」と題し、キャリアを考える上でのヒントをご紹介させていただきます。今回は、「アイデンティティを作り変えていくこと」をテーマにお伝えします。
アイデンティティを作り変えていくこと

皆さんご存知の通り「アイデンティティ」とは、「自分とはこういう人間であること」ということを自他ともに認識している自己像のことで、過去から現在にいたるまでの時間軸で、また自分は他の誰でも無い自分であるという空間軸の2軸で捉えることができます。
米国の心理学者で発達心理学者として著名なエリク・エリクソンによれば、「アイデンティティの確立」を発達課題とする時期は「青年期」であり、その青年期でアイデンティティ課題を克服し自分像を確立したら、その後の成人期・壮年期にはその自己像はあまり変化しないもの、といわれていました。
しかしながら、現在の私たちの生活する社会環境、すなわち、変化が激しくまた人生100年時代といわれるほど寿命も延びてきた環境においては、アイデンティティは何度も作り替えられる必要があるとも言われています。
私もその考え方に共感しています。
独の心理学者であるポール・バルテスは、人生は「獲得と喪失の繰り返しである」と言っています。
これは青年期に限らず、成人期、壮年期、そして老年期にも起こりうることで、逆に言えば獲得と喪失を繰り返すことができるから、人間は成長するのだと思います。
過去に獲得した知識に基づく知恵は、社会生活を賢く送る上で大切な財産ですが、過去の知恵に固執し、新しい知識を紐づけて融合した知恵に作り変えていく作業をしなければ、その人間は社会に生き残れないだろうと思います。
アイデンティティの再確立も同様で、過去の自分の殻が今の時代や周囲の環境に合わなくなれば、たとえ自分という殻を破ることが怖いことであっても、その殻を破る努力をしなければなりません。この再確立の作業を勇気を持ってできるかどうかが、その人の人生の幸福感にも繋がってくるのでしょう。
ユングは中年期のことを、「人生の正午」としています。
折り返し地点から死というゴールに向かい始めた、と考えることもできますが、今まで前半戦では、影になって見えなかった部分が見えてくる時期であるとも考えられます。
今まで影となって見えていなかった部分をしっかり見つめ直し、柔軟な知恵で人生の課題に対応していきたいと思います。