本コラムでは、当社コンサルタントの武田が、「キャリアエッセイ~自分のミッションを求めて~」と題し、キャリアを考える上でのヒントをご紹介させていただきます。今回は、「旅人と熊」をテーマにお伝えします。
旅人と熊
イソップ童話には「旅人と熊」という話があります。
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男性二人が旅をしていた時、そこに突然熊が現れた。
一人は素早く木に登って隠れ、もう一人は地面に倒れて死んだふりをした。
熊は倒れた男性に鼻を近づけてにおいをかいでいました。
熊は死んだ人には手を出さないと聞いていたので、彼はじっと息を止めていた。
そして熊が去って行くと、もう一人は木の上から降りてきて「熊があなたの耳の近くで何か言っていたけれども、何て言ったんだい?」と聞いた。
すると、死んだふりをしていた人が「熊は、危険な時に助け合わないような友達とは旅行するなよ、と言っていた」と話した。
(参考:みんなが知っておきたいイソップ寓話100話「旅人と熊」)
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この物語を通じてわかることは、「トラブルが起きることによって相手が見えてくる」ということではないかと思います。
私たちの人生において、色々なトラブルに遭遇することがあります。その中でも一番多いのが人間関係のトラブルなのではないかと思います。
平時ではなく何か問題が起こったときに、態度が豹変したり自己中心の思考に凝り固まったりする人がいますね。今まで協力しあいながらやってきたことも、いきなり線引きをして自分の責任ではないと言い始めたり・・・。
でも、その出来事で見えた事実は、その時点では自分にとって悲しい事実であっても、将来において一緒に物事をなし得る仲間であるかどうか、その気づきの機会になったという意味では救いがあるのかもしれません。
私自身、他人のことを評価するような賢い人間ではありません。他者に対して、自分の限界ゆえにトラブル対応で悲しい思いをさせてしまったことも数多くあると思っています。その点は謙虚に受け止めなければなりません。
仕事の世界は、人間としての付き合いというよりは、役割としての仮面を被った関係の比重が高く、また過去よりは将来が重視されることも多いため、価値観や手法が異なる人間とはトラブルが起こりやすいし、そもそも共存も難しいですね。ですから、ちょっとしたトラブルでも自分が見えていた景色がいきなり反転するようなこともあります。その時に、自己中心で物事を対処してしまえば、木に登った人間と一緒になってしまいます。でも他者を助けようとして自分が対処できずに熊に殺されてしまうのでは、何のための仕事・職場なのだろうかとも考えます。
「日本人は死ぬまで自分をすり減らして働くことに美徳を感じている」。それを聞いた外国人は「仕事で死ぬことが美徳など全く理解ができない。人生を楽しむための手段として働くのであって、仕事で死んでしまったらまったく意味が無い、ナンセンスだ」と言ったといった話を聞いたことがあります。
自分軸をしっかりと持ち、組織の一員としての貢献や自分の成長のために必要な努力は積み重ねていきながら、一方で過度に責任を持ち過ぎて自分のバランスを崩すような落とし穴に陥らないよう、自己制御していきたいと思います。
■執筆者プロフィール
武田 宏
日清製粉グループオリエンタル酵母工業にて海外貿易業務に従事。その後同社にて人事制度改革プロジェクトに参加し、「人」という経営資源のあるべき姿について学ぶ。2001年株式会社ニッペコに入社。海外企業(独)との資本・業務提携のプロジェクト遂行、人事・経理・情報システム等の管理部門責任者を経て、現在は人材育成・社員相談業務を主とするキャリア支援室室長を務める。合わせて社長付として経営補佐の任も担う。
支援人事、キャリア開発支援に携わり15年が経過。現職の傍ら、現在放送大学大学院にて臨床心理課程で「心」を学び、組織視点だけでなく個人視点での成長にコミットできるよう研鑽を重ねている。2020年よりタラントディスカバリーラボ代表、㈱セイルコンサルタントとして、キャリア開発支援活動を開始。