本コラムでは、当社コンサルタントの武田が、「キャリアエッセイ~自分のミッションを求めて~」と題し、キャリアを考える上でのヒントをご紹介させていただきます。今回は、「心理的に安全な場をつくることの大切さ」をテーマにお伝えします。
心理的に安全な場をつくることの大切さ
皆さん、「チーミング」についてご存知でしょうか。チーミングとは、「新しいアイディアを生み、答えを探し、問題を解決するために人々を団結させる働き方」のことです。すなわち、個人ではなく、いかにチームとして成果を上げることを考えて実行するかであり、リーダーシップが求められます。
チーミングしていく際の重要な要素の一つとして、組織に於ける「心理的安全性」が挙げられます。
心理的安全性が不十分であった実例として、2003年にケネディ宇宙センターから打ち上げられたスペースシャトル「コロンビア号」の悲劇があります。発射直後にあるエンジニアが技術的な懸念を持ち、一度は覚悟を持って上役に調査の提言をしたのですが、結局は組織のヒエラルキーに反逆することの限界や諦め、保身からトーンダウンしてしまいました。これにより、宇宙での修復が困難だったとはいえ、その重大損傷に触れられないまま、スペースシャトルは、8日後に再び大気圏に突入する際に燃え上がり、7名の宇宙飛行士全員が命を落としてしまったのです。
組織は基本的には権力構造です。上意下達が基本形です。けれども、変化が激しくコモディティ化が進み、産業分野もさらに複雑化し、DXはじめ知識労働が幅を利かせるようになってきている現代において、組織や上役はどれだけ正しい答えを明確に提示できるのでしょうか?
誰も正解が分からない中で正解を求めるためには、誰かが必要な試行錯誤をしなければなりませんし、その経験を知恵にしていく努力が必要です。このような環境の中でもし昔のような独裁体制での政治をやったらどうなるでしょう。あえて課題に挑戦するよりも、「黙っている方が得」と考える方が普通なのではないでしょうか。
解答の無い課題、複雑な要因により因果関係が不明瞭な課題など、私たちは常に困難な課題を抱えています。
こういう課題への対処をする際には、リーダーは、実務の第一線にいるチームメンバーの気づきや意見を聴く姿勢を持ち、見えない課題に対し協働して任に当たるスタンスを持つことが重要であると思います。すなわち、双方向のコミュニケーションが成立する心理的安心感が組織に無ければ、下位者は上位者に対し、リスクを冒してまで提言はしないのです。
人が重視するのは、能力よりも優しさや信頼できるかどうか、また正しい行いをするかどうかであることが、研究によって証明されているそうです。エドモンドソン曰く、このことは進化論的な観点から見て、生き残ることにとっては、相手の能力よりその意図の方が大きな意味を持っているからではないかと言っています。
ビジネスパーソンとしては失格であっても、信頼に足る人間であったと言われるように、残りの仕事人生で心がけたいと思います。
■執筆者プロフィール
武田 宏
日清製粉グループオリエンタル酵母工業にて海外貿易業務に従事。その後同社にて人事制度改革プロジェクトに参加し、「人」という経営資源のあるべき姿について学ぶ。2001年株式会社ニッペコに入社。海外企業(独)との資本・業務提携のプロジェクト遂行、人事・経理・情報システム等の管理部門責任者を経て、現在は人材育成・社員相談業務を主とするキャリア支援室室長を務める。合わせて社長付として経営補佐の任も担う。
支援人事、キャリア開発支援に携わり15年が経過。現職の傍ら、現在放送大学大学院にて臨床心理課程で「心」を学び、組織視点だけでなく個人視点での成長にコミットできるよう研鑽を重ねている。2020年よりタラントディスカバリーラボ代表、㈱セイルコンサルタントとして、キャリア開発支援活動を開始。