今回は、キャリア全体像の4つの視点(1.個人視点×形からのアプローチ、2.個人視点×心からのアプローチ、3.集団視点×形からのアプローチ、4.集団視点×心からのアプローチ)から、「4.集団視点×心からのアプローチ」として、「モチベーション」について考えていきたいと思います。
モチベーション
皆さんは、「モチベーション」と聞いて、どのようなことを思い浮かべますか。
「モチベーションとは、人が一定の方向や目標に向かって行動し、それを維持する働きを意味し、「動機づけ」「やる気」とも呼ばれ、人間の行動がいかにして始動し・方向づけられ・維持され・停止していくのか、そしてこれらが進行する過程でどのような反応が人間有機体の内部に生起するのか、を説明するのに考えられた概念であるとされている。」(引用:コトバンク「モチベーション」)
つまり、何かを行おうとする「やる気」や「エネルギー」のことであり、その背景にある「気持ち」のことを指すのです。
一人で独立して事業している方ならまだしも、通常我々は組織人として仕事をしています。自分のやる気を自己調整することは誰でも必要ですが、組織の管理監督者は周囲の人たちに働いてもらうことが自分の課題になりますから、周囲の人それぞれがどんな場合にモチベーションが上がったり下がったりするのか、その感受性にも敏感でなければなりません。
モチベーションの分類の方法は様々ありますが、動機付けの要素に着目した分類として、いくつかご紹介します。
・欲求アプローチ
人は多種多様な欲求を持っていて、それらによって動機付けされる
・情動アプローチ
理屈ではなく、自然に気分が集中し没頭する
・認知アプローチ
主観的解釈。期待面から行動に各人が意味づけ、価値づけを行う
現在では、特に社会活動の現場においては、「認知アプローチ」が主として注目されていますが、人間は全てにおいて、認知を基にした経済的な価値や合理性だけで動くわけでもありません。それが面白いところです。
また、もう1点外すことのできない考え方で、「外発的動機付け」と「内発的動機付け」という角度からの分類もあります。
・外発的動機付け
自分以外の外部の刺激によって行動を起こす
・内発的動機付け
自分の意志と感情で行動を起こす
欲求アプローチ
「欲求アプローチ」から詳しく見ていきたいと思います。
「欲求アプローチ」とは、人間は多種多様な欲求を持っていて、主にそれらによって動機付けが規定されるという考え方です。「欲求が人を行動に駆り立てる一種のエネルギーになる」という考え方は、極めて素朴で腑に落ちるものです。
但し、心の問題を科学で解明しようとする現在の心理学の立場からすると、欲求を具体的に表すことは難しいので、現在では他の2つのアプローチと比べると傍流のようです。
「欲求アプローチ」で最も有名な理論が、マズローの欲求段階説です。
マズローは、生理的欲求、安全の欲求、所属と愛の欲求、承認の欲求、自己実現の欲求というように欲求の段階を区別しただけではなく、低次の欲求が満たされて初めてそれよりも一つ高次の欲求が機能するというメカニズムを想定しました。また最高次の「自己実現の欲求」のみを、各人の可能性を最大限に発揮させようとする「成長欲求」として描く一方で、他の欲求を剥奪状態による不満足によって行動が生起する「欠乏欲求」と区別しました。
マズローは、「自己実現」を達成している人の経験を「至高体験」と命名し、これを自己と状況とが一体化し、自分を忘れて何かに没頭している状態であると言いました。これは、後述のチクセントミハイが提唱した「フロー状態」と同じ概念と言っていいと思います。
また、マズロー理論の進化版として、アルダーファのERG理論というものがあります。「生存」(existence)、「関係」(relatedness)、「成長」(growth) の頭文字をとっていますが、欲求を階層で捉えるのではなく、同時に作動することがあるとした点で、現在の日常生活の実感には近いものといえるでしょう。
次回コラムで、「欲求アプローチ」を更に深堀りして考えていきたいと思います。
■執筆者プロフィール
武田 宏
日清製粉グループオリエンタル酵母工業にて海外貿易業務に従事。その後同社にて人事制度改革プロジェクトに参加し、「人」という経営資源のあるべき姿について学ぶ。2001年株式会社ニッペコに入社。海外企業(独)との資本・業務提携のプロジェクト遂行、人事・経理・情報システム等の管理部門責任者を経て、現在は人材育成・社員相談業務を主とするキャリア支援室室長を務める。合わせて社長付として経営補佐の任も担う。
支援人事、キャリア開発支援に携わり15年が経過。現職の傍ら、現在放送大学大学院にて臨床心理課程で「心」を学び、組織視点だけでなく個人視点での成長にコミットできるよう研鑽を重ねている。
2020年よりタラントディスカバリーラボ代表、㈱セイルコンサルタントとして、キャリア開発支援活動を開始。