本コラムでは、当社コンサルタントの武田が、「キャリアエッセイ~自分のミッションを求めて~」と題し、キャリアを考える上でのヒントをご紹介させていただきます。今回は、「ワークライフ・インテグレーション」をテーマにお伝えします。
ワークライフ・インテグレーション
私たちは普段、「ワークライフバランス」という言葉を耳にします。
ひと昔前の日本には、以下のような暗黙の慣習がありました。
- 働けば働くほど、身銭も増えていくし昇進もする。残業するのが当たり前で、残業代も稼ぎの一つ。
- そういう働き方を通して、仕事経験により能力が上がっていく。
- 男性はそのように働いて経済的な面を支えることに専念し、その代わり女性は家庭で家事育児を受け持ち、夫を支える。
基本的に男性一人の稼ぎで家族は食べていくことが可能で、日本国の成長は永遠に続くのであるから、自分の会社も併せて成長する、そして政府もそれを応援してくれるという神話に基づいていました。
しかし、すでに30年くらい前から、このような神話は崩れてしまいました。
まずは、日本国の成長が止まり人口も減少し始める・・・
企業成長が鈍化し賃金上昇が伸び悩み、一人の稼ぎでは家計を守っていきにくい・・・
一方で大学進学率が50%を超え、ホワイトカラーに従事したい男女若手の総数が増え、また諸外国の影響もあり雇用機会均等法が施行され女性の就業率が上昇する・・・
出産育児の公的条件は整わず、出生率低下を招く・・・
高齢者が多く、支える若者が少なくなるという人口構成の逆転現象が起こり始め、消費税増税や年金支給の仕組みを改める動きが、さらに加速する・・・
家計を支えるために夫婦で稼がないと食べていくことができない・・・
家庭を支えるのは、一方の配偶者だけの問題ではないので、当然夫婦ともども、「残業があるから家に帰れない。ましてや上司から酒の席に誘われたから、今日は飲んでいく。」という選択はもはや過去の世界なのです。
但し、ワークとライフは時間的なバランスをさせるだけのものでしょうか。
商品のライフサイクル然り、様々な社会の動きが速くなって、昨日までの成功は明日からの成功を保証しない現代(VUCAの時代)では、所属する会社で分業化した仕事だけやっていても、新しい価値を作ることは難しいです。その小さい世界に凝り固まって、その中でしか通用しない能力しか育たないためです。
逆にライフを充実させて、ライフの中で学んだこと、ライフの人間関係の中で得たことなどをワークに用いること、またその逆にワークで得られたものをライフにも転用するなど、ワークとライフはどちらかが「主」で片方は「従」ではなく、どちらも「主」であると考え統合していくことが大切であるのです。この考え方がワークライフ・インテグレーションです。
私自身、ワークライフ・インテグレーションの実践には合格点は得られていません。
「武田さん、仕事が多くて大変なのはわかるけど、休日出勤の習慣はやめて、家庭を大切にしてください。実質的に社員現役を退いて夫婦二人の新しいステージに入ると、感じるものがまた違うから。」
ある社外の先輩にこのようなアドバイスいただいたことが、とても胸に響いています。
■執筆者プロフィール
武田 宏
日清製粉グループオリエンタル酵母工業にて海外貿易業務に従事。その後同社にて人事制度改革プロジェクトに参加し、「人」という経営資源のあるべき姿について学ぶ。2001年株式会社ニッペコに入社。海外企業(独)との資本・業務提携のプロジェクト遂行、人事・経理・情報システム等の管理部門責任者を経て、現在は人材育成・社員相談業務を主とするキャリア支援室室長を務める。合わせて社長付として経営補佐の任も担う。
支援人事、キャリア開発支援に携わり15年が経過。現職の傍ら、現在放送大学大学院にて臨床心理課程で「心」を学び、組織視点だけでなく個人視点での成長にコミットできるよう研鑽を重ねている。2020年よりタラントディスカバリーラボ代表、㈱セイルコンサルタントとして、キャリア開発支援活動を開始。