今回は、キャリア全体像の4つの視点(1.個人視点×形からのアプローチ、2.個人視点×心からのアプローチ、3.集団視点×形からのアプローチ、4.集団視点×心からのアプローチ)から、「4.集団視点×心からのアプローチ」として、「パーソナリティ」について考えていきたいと思います。
パーソナリティ
個人視点のキャリア開発の項で、自己理解を深める大切さについてお話ししました。
人間は個々人異なったパーソナリティを持って生活しているわけですが、ここではパーソナリティについてまず確認してみましょう。
パーソナリティは、以下3つの言葉で表されることが多いです。
・性格 character
「刻み込まれたもの」という意味。
その人の表面に表れた他人と区別される特徴。
・気質 temperament
その人の人となりの特徴の基底をなす比較的永続的で安定した部分。生得的側面が強い。
・人格 personality
性格、気質も含み、知能、情緒、身体性も含めたより包括的な概念。
この中では、英語表記にもあるように、最後の「人格」という概念が「パーソナリティ」という言葉に一番近い感じがします。「その人らしさ」という感じでしょうか。
この「パーソナリティ」は、心理・身体的システムの寄せ集めではなく、それらが相互作用をして組織されている、もう一段上位の仕組みのことを指します。心理、身体の機能の構成要素ごとに分解したら全く同じ要素を持っていた方がいたとしても、同じパーソナリティを持つ人間にはなりえないゲシュタルト(=全体性をもったまとまり)的な存在なのです。
またパーソナリティは、単に環境の影響から決定されるものではなく、自ら主体的に環境を選び、環境を意味づけ、環境に対して働きかける能動的なものです。常に自分のあるべき姿を必要に応じて変えながら成長していく様は、まるでアイデンティティを作り変えていくようなものです。このような継続的な精神作業を通じて、その人のパーソナリティが確立されていくのです。
人格とも言われるパーソナリティは、自分自身が一番の拠り所にして大切にしているものです。ですから組織においては、メンバー同士が目的・目標を同じくする仲間のパーソナリティを理解し、その利き手に沿ったキャッチボールを行うことが大切です。特に管理者にはそれを理解してほしいと思います。
組織内で問題が起こる時、「人」に問題があるのではなく、人と人の「間」に問題があることが多いです。この「間」の取り方こそが、組織運営のキーポイントの一つになるのです。
とはいえ、その人特有のパーソナリティが組織の調和を乱したり、混乱を招いたりすることもあります。いわゆる「パーソナリティ障害」(昔は「人格障害」)を持っている方もいますので、その場合には距離の置き方や対応の仕方を十分気を付けないと、接する側が精神的に変調してしまいます。
パーソナリティ障害の方は、基本的には「相手の立場や気持ちを察することが苦手で、自分本位のスタンスが強い」です。(この原因についてですが、生来的な要素もあり、環境的な要素もあります。)
このため、通常のキャッチボールの感覚で相手の反応を期待していると、とんでもないビンボールがいきなり返ってきたりするのです。私も経験がありますが、自分であれば他者に発することのできない相手の心を傷つけるような言葉を平気で発したりします。でも、その方に悪気があるというよりは、その方にとってそういう言葉を発すること自体が自然であって、言わないことの方が失礼だという感覚です。なぜ言われた方が萎れてしまうのか、認知しにくいのです。
コラム⑧でお伝えしたサリーとアンの「心の理論」でいえば、前頭葉(推理能力、論理力)では「サリーはかごを見る」と答えられるのですが、人間の感情を司る機能に障害があるために、対人関係の上では、悪気なく「サリーは箱を見る」という次元で言動してしまうのです。
パーソナリティ障害の分類については、図1にて紹介しておきます。
図1パーソナリティ障害の分類
引用:公益社団法人日本精神神経学会「林直樹先生に「パーソナリティ障害」を訊く」
■執筆者プロフィール
武田 宏
日清製粉グループオリエンタル酵母工業にて海外貿易業務に従事。その後同社にて人事制度改革プロジェクトに参加し、「人」という経営資源のあるべき姿について学ぶ。2001年株式会社ニッペコに入社。海外企業(独)との資本・業務提携のプロジェクト遂行、人事・経理・情報システム等の管理部門責任者を経て、現在は人材育成・社員相談業務を主とするキャリア支援室室長を務める。合わせて社長付として経営補佐の任も担う。
支援人事、キャリア開発支援に携わり15年が経過。現職の傍ら、現在放送大学大学院にて臨床心理課程で「心」を学び、組織視点だけでなく個人視点での成長にコミットできるよう研鑽を重ねている。2020年よりタラントディスカバリーラボ代表、㈱セイルコンサルタントとして、キャリア開発支援活動を開始。