今回は、キャリア全体像の4つの視点(1.個人視点×形からのアプローチ、2.個人視点×心からのアプローチ、3.集団視点×形からのアプローチ、4.集団視点×心からのアプローチ)から、「4.集団視点×心からのアプローチ」として、引き続き「モチベーション」について考えていきたいと思います。
情動アプローチ
今回は、動機付け要素の分類の一つである、「情動アプローチ」を紹介します。
私たちは普段、基本的には合目的的に生きています。企業活動はその典型的な例で、経済合理性の追求が一番上位に来るスタンスであると考えます。但し人間は、このように目標達成度を数値のみで測る世界に自分の心をすべて委ねられるのか・・・必ずしもそうではないですよね。自分にとって損かもしれない、と思っても、自分がやりたいと思う行動をとることも結構あると思います。
「情」に当たる部分は、人間特有の発達している大脳新皮質で育まれるもので、思考とともに人間らしいパーソナリティを生む要素です。「情動」というのは、簡単に言えば「感情」のことですが、「感情」というと日常的な気持ちの部分を表すイメージが強いです。「情動」は、この感情に加えて、生理的身体的変化や表情なども含め、全ての心理現象を総合的に捉えるような概念です。
科学的に「心」を捉えようとする現代心理学からすると、「情動」というのは「科学」の枠組みに乗りにくいため、どちらかといえば動機付け理論の中では古典的位置づけにはなってしまうのですが、社会生活への適応を中心に人間の心を考える視点では、喜び、怒り、嫌悪、恐怖といったDNA直結の「情動」を無視して、モチベーションを語ることも難しいのではないでしょうか。
「情動」アプローチの中心的な理論として、「フロー理論」を紹介いたします。
我々は何かに集中しているとき、「のめりこんでいる」という表現をします。これをフロー状態というのですが、フローとは、自然に気分が集中し努力感を伴わずに活動に没頭できるような、目標と現実とが調和した体験であり、その際、活動は滑らかに進行して効率的になるばかりでなく、本人の能力伸長も合わせて得られているような状態のことを言います。
活動の最終的な結果や、そこから得られる金銭的報酬、賞賛といった外発的な利益とは全く無関係の、それをすること自体が報酬となるような自己目的的活動の現象はどのようにして生まれるのだろうか・・・フロー理論を作ったチクセントミハイは、そんな疑問から考え始めたそうです。
フローが生まれる条件ですが、自分の持っているスキルの度合いと挑戦する課題の困難度のバランスが必要で、あまりにも難しい課題であると不安の方が先にきてしまいますし、簡単すぎても退屈してしまいます。
自分の現在持っている技能よりも少し難しい、また課題自体も努力すれば達成可能だと思われるレベルの課題があり、自分こそがこの課題に取り組むべき使命を授かっている、と思えるような環境に置かれたら、やってみようというモチベーションは高くなります。
■執筆者プロフィール
武田 宏
日清製粉グループオリエンタル酵母工業にて海外貿易業務に従事。その後同社にて人事制度改革プロジェクトに参加し、「人」という経営資源のあるべき姿について学ぶ。2001年株式会社ニッペコに入社。海外企業(独)との資本・業務提携のプロジェクト遂行、人事・経理・情報システム等の管理部門責任者を経て、現在は人材育成・社員相談業務を主とするキャリア支援室室長を務める。合わせて社長付として経営補佐の任も担う。
支援人事、キャリア開発支援に携わり15年が経過。現職の傍ら、現在放送大学大学院にて臨床心理課程で「心」を学び、組織視点だけでなく個人視点での成長にコミットできるよう研鑽を重ねている。
2020年よりタラントディスカバリーラボ代表、㈱セイルコンサルタントとして、キャリア開発支援活動を開始。