今回は、キャリア全体像の4つの視点(1.個人視点×形からのアプローチ、2.個人視点×心からのアプローチ、3.集団視点×形からのアプローチ、4.集団視点×心からのアプローチ)から、「2.個人視点×心からのアプローチ」として、「自分の価値観を考える」、「社会構成主義的な考え方」について考えていきたいと思います。
自分の価値観を考える
今回は、価値観について考えてみましょう。
まず初めに「価値観の深掘り」ワークをしてみましょう。
価値観の概念を表す言葉を検索してみてください。
その中から、自分が大切だと思う言葉を数種選んで、なぜ自分がその言葉を大切だと思い選んだのか、その選んだ理由やきっかけ、あるいはその背景にはどんなドラマがあったのか、何度も深掘りして考えてみてください。それがあなた自身の「心の利き手」になっているのです。
この「価値観の深掘り」も、できれば自分のことを開示しても大丈夫な信頼できる他者からのフィードバックをもらえると、更に自己理解が深まると思います。
その他にも以下にあるような様々な自己理解のツールがありますので、試してみてください。
自己理解を深めることによって、他者理解を深めることができるようになります。あるいはあなたが管理者側の人間であったら、部下の成長を促すためのヒントになるでしょう。
・交流分析
交流分析(Transactional Analysis)は、精神分析に基礎を置く力動的視点を持ち、観察できる行動に焦点を当て、人間学的心理学の哲学を持った統合的な心理療法です。・・・交流分析は分かりやすい言葉と図示による分析が特徴ですが、学ぶほどに奥が深く、応用の範囲も多岐にわたっています。(引用:日本交流分析学会「交流分析とは」)
・ライフラインチャート作成
ライフラインチャートは、縦軸に満足度(充実度)、横軸に過去の年齢(時間軸)をとったグラフです。横軸は左端が0歳の時、そして右端は現在や想定する将来のある時点を置きます。その表の中に、自分の人生の満足度を表す曲線をフリーハンドで描いていくのです。満足していた時期はラインを上げて、逆に満足できていなかった時期は下げるようにして描いていきます。
それができたら、自分自身にこんな風に問いかけてみてください。
1. 山の部分を見て、共通することは何だろう? 自分が満足(充実)していたのはなぜだろうか?
2. 谷の部分を見て、共通することは何だろう? 自分が満足(充実)していなかったのはなぜだろうか?
これらの自問自答から、自分自身に特有なパターンや自分にとってのキーワードを見つけてみてください。きっと自分にとって大切なこと、価値基準が見えてくるはずです。(引用:特定非営利活動法人 日本キャリア開発協会「キャリアを考えるには」)
・CUBIC自己診断アセスメント
15分程度の検査時間で、個人の資質を多面的に把握し、採用判断やタレントマネジメントの際に客観的資料としてお役に立ちます。分析結果は、本人の特性を多面的に評価し、全体像をビジュアル的に表現、専門家レベルの出力を維持しながら誰にでも理解できるように構成されています。(引用:株式会社CUBIC「個人特性分析」)
また、もう一つ、価値観を知るためのツールをご紹介します。
エドガー・H.シャインによって提唱された「キャリア・アンカー」というものです。このキャリア・アンカーとは、個人が自らの生き方や働き方を考える時、どうしても譲れない「価値観」や「欲求」「能力」のことを指します。
アンカーは英語で「錨(イカリ)」の意味ですが、自分を船に、人生を航海に例えた場合、錨は、船が流されてしまうことを防ぐ働きをします。ですから、キャリア・アンカーは、さまざまな環境変化があったとしても、自分自身の中で揺らがない自分の働き方の軸となるものです。
キャリア・アンカーは8つに分類され、40問の問に答えることで、自分のアンカーを知ることができます。
8つのどれかに完全に自分があてはまるものではなく、全ての要素は共存しますが、その中でも自分の強い傾向を知ることが大切です。何か困難なことが降りかかってきた場合でも、その自分のアンカーを知ることによって、自分を信じて踏みとどまることも、また転進の機会でも自分らしい思考・行動ができる助けになります。
社会構成主義的な考え方
次に、社会構成主義という考え方についてご紹介します。
社会構成主義とは、物事を捉えるときに、「科学的思考に基づいて現実を見る」という視点ではなく、「現実とは、人々の認知によって作られるもの。すなわち唯一無二のものはなく、絶えず変化していく動的なものである」という視点のことを言います。
虹を見て、日本人は7色であると見えますが、これは小さいころからそのように教わってきたからそう見えるのであって、他国では4色とか5色とかに見えている国もあるそうです。実際に人間の視覚は、他の動物と違って際立って優れているわけでもなく、人種や住んでいる地域によって視覚自体も変わっているとも考えられます。要するに、科学的に7色である証明をして正しさを競うのではなく、雨の後に空にかかる美しいもの、という共感できる視点を持つことの大切さを言っているのです。極端に言えば、人の数だけ「正義」があるということです。そしてその人の数だけ「ストーリー(物語)」があるわけです。
クルト・レビンが教えてくれた「場の理論」でも、行動の原因をその人自身のパーソナリティにすべて帰すことはできないと学びました。その人を取り囲む環境も含めて、その人のストーリーが成り立っています。その人のストーリーまで踏み込んで考える方法を「ナラティブに考える」という言い方をします。ナラティブな人間理解が社会構成主義の基本です。科学的なアプローチを現代(モダン)主義とするなら、社会構成主義はポスト・モダンの1つのあり方です。
人間には、絶対的な真実は理解できないという前提に立てば、宗教戦争や覇権争いの存在を再考する契機にもなるでしょう。
歴史を学ぶときにも、社会構成主義的な考え方が必要かと思います。歴史上のあるときまでは、白人の男性が見ている世界が「真実」であったのかもしれません。いまその正誤を問うというよりは、どうしたら意見の異なる当事者同士で納得解を得られるかの努力をすることが大切で、現代において交渉学やアサーションが注目されているのはその故かと思っています。
「人が嫌だと思うことをしてはいけない」では不十分です。「自分は大丈夫でも、他者は大丈夫でないかもしれない」というところまで意識を向けることができるのか、これが自己理解と他者理解の神髄なのだと思います。
■執筆者プロフィール
武田 宏
日清製粉グループオリエンタル酵母工業にて海外貿易業務に従事。その後同社にて人事制度改革プロジェクトに参加し、「人」という経営資源のあるべき姿について学ぶ。2001年株式会社ニッペコに入社。海外企業(独)との資本・業務提携のプロジェクト遂行、人事・経理・情報システム等の管理部門責任者を経て、現在は人材育成・社員相談業務を主とするキャリア支援室室長を務める。合わせて社長付として経営補佐の任も担う。
支援人事、キャリア開発支援に携わり15年が経過。現職の傍ら、現在放送大学大学院にて臨床心理課程で「心」を学び、組織視点だけでなく個人視点での成長にコミットできるよう研鑽を重ねている。
2020年よりタラントディスカバリーラボ代表、㈱セイルコンサルタントとして、キャリア開発支援活動を開始。