1回目のコラムでキャリア全体像にて、4つの視点(1.個人視点×形からのアプローチ、2.個人視点×心からのアプローチ、3.集団視点×形からのアプローチ、4.集団視点×心からのアプローチ)をご紹介しました。今回は、「1.個人視点×形からのアプローチ」として、「社外人脈の形成」について考えていきたいと思います。
社外人脈の形成
人間は、社会的動物と言われます。どんなに強い人間でも一人で生きていくことはできません。
「社会脳仮説」というものがあるのですが、人間の脳は他の動物比べて、前頭葉と呼ばれる記憶や思考を司る高次な精神機能を行う部分が発達しています。その部分は、自然環境よりも社会環境に対応するために必要になった脳で、「心」を持つ相手に、一方的に不利な立場に置かれることなく協力関係を結ぶために必要な知恵を制御しているのです。
そういう意味で、社会生活をする上では「人脈」というのは非常に大切です。でも人脈にもいろいろありますね。自分との距離の近さで区分けすることもできますが、ここでは「社内人脈」と「社外人脈」に分けて考えてみたいと思います。
「社内人脈」というのは、ある意味非常に強固です。役割や立場は違っても、同じ目的に向かって結集する同僚同士ですので、お互いの利益が大きく反しない限りは協力関係を結びやすいといえます。でもこれは、「狭く深い」関係であり、言ってみれば人脈の上ではセーフティネットです。
しかしながら、人脈の上でこのセーフティネットしか無かったとすれば、その人のキャリア開発にはどうでしょうか。情報はほとんど社内からしか入ってこないし、それも社内で有用であると誰かが判断してフィルトレーション(選別)された情報しか入手できなくなってしまします。価値観についても、会社生活が長くなればなるほど、会社文化に即した価値観に収斂されがちになるでしょう。これでは、波風は立ちにくいけれども、社外の環境変化や新しい情報については疎くなってしまいますね。
次に「社外人脈」について考えてみましょう。人脈をワークやライフを含めて社外に広げてみたらどうなるでしょうか。
社外でお付き合いする人たちとは、例えば学生時代の友人であったり、地域の方々であったり、あるいは自分の子どもの学校関係で知り合った人たちということもあるでしょう。また趣味やクラブ活動を通じたメンバーもいるでしょう。これらの人たちに共通していえるのは、基本的には損得が無い立場での付き合いができる仲間であるということです。社内人脈であると、どうしても自分の仕事、自分の立場、自分の給料、自分の地位などのことを過去から将来にわたって常に意識せざるを得ませんが、社外の仲間は、そういう神経を使うことがあまりありません。ゆえに、素の自分を出すこともできるし、重たい仮面をつけておく必要もないわけです。ただ、社内人脈のように共通の目的に向かって戦う利益追求集団ではありませんから、関係としては「浅い」関係にはなってしまいます。
次のワークをやってみてください。
紙に五角形を記入してください。あなたにとって、現在とても重要だと思う人、また普段困ったときに相談に乗ってもらったりしている人を5人に絞って、五角形のそれぞれの頂点に書いてみてください。その後、その人たち同士が知り合いであるなら、実線で結んでみてください。
いかがだったでしょうか。
実線の数は、最多で10本となります。実線の数が多ければ多いほど、あなたを取り巻く人間関係が狭い関係の人で占められていることになります。また実戦の数が少なければ、広い人間関係の中にいることになります。これは、どちらが良いという正誤の話ではありません。ただ、実線の数が多く、自分にとって大切だと思う人同士が全て知り合いである、というような場合には、ある意味閉鎖的な人間関係の中にいることとなり、本当に困ったときのセーフティネットの役割にはなるのでしょうが、一方、あなた自身の可能性を広げていくには、疑問が残りますね。
ワークライフ・インテグレーションの項でも述べたように、ワーク中心で人生100年は考えられません。肩書きがあるうちは良いとしても、そのような「地位財」は退職とともに無くなってしまいます。幅広い分野や世界の方々と知り合い、意見交換し、さまざまな生き方を考え受け入れるような、そういう人脈を育てていきたいものです。
■執筆者プロフィール
武田 宏
日清製粉グループオリエンタル酵母工業にて海外貿易業務に従事。その後同社にて人事制度改革プロジェクトに参加し、「人」という経営資源のあるべき姿について学ぶ。2001年株式会社ニッペコに入社。海外企業(独)との資本・業務提携のプロジェクト遂行、人事・経理・情報システム等の管理部門責任者を経て、現在は人材育成・社員相談業務を主とするキャリア支援室室長を務める。合わせて社長付として経営補佐の任も担う。
支援人事、キャリア開発支援に携わり15年が経過。現職の傍ら、現在放送大学大学院にて臨床心理課程で「心」を学び、組織視点だけでなく個人視点での成長にコミットできるよう研鑽を重ねている。
2020年よりタラントディスカバリーラボ代表、㈱セイルコンサルタントとして、キャリア開発支援活動を開始。