昨今の働き方改革やAIやIoT技術の発達、新型コロナウイルスの流行など、労働者を取り巻く環境や労働者の価値観は急速に変化しています。その中で生産性の向上や離職率の改善等の問題に取り組むためには、心理的安全性を高め、組織のレジリエンスを高めていくことが目的として考えられます。
ピアボーナスとは
心理的安全性を高め、組織のレジリエンスを高めていく手段として注目されているのが「ピアボーナス」であり、すでにアメリカでは主流になりつつある人事評価制度の一つです。ピアボーナスとは「peer(仲間)」と「bonus(報酬)」が合わさった言葉であり、従業員同士がお互いに報酬(少額の金銭的報酬またはポイント等)を贈り合うことができるサービスのことをいいます。
ピアボーナスのメリット
1.組織内のコミュニケーションが活性化される
従業員同士で報酬を贈り合うことで、コミュニケーションが増えます。報酬を贈るだけではなく、他の従業員の強みや成果を評価して贈られるため、コミュニケーションの内容も前向きで好循環を生むものとなるでしょう。特に、新型コロナウイルスの流行によるテレワークを中心とした働き方の多様化の問題点として挙げられる、コミュニケーション不足や孤独感に対応することができます。
2.職場での「賞賛」が可視化できる
報酬を贈る数や内容が可視化できるため、誰がいつどんな良いことをしたかが職場内に拡がります。
例えば、報酬をカウントして数値化することで、職場内でどの程度賞賛文化が根付いているのか確認することができます。具体的には、アナログなやり方ではありますが、カードを一つのピース(花びら)に見立てて、カードを集めることで大きな紙の桜を作り上げることもできます。サンクスカードが良い例です。
3.ミレニアル世代とZ世代の価値観の多様化に対応
1996~2005年生まれを指すZ世代、1982~95年生まれを指すミレニアル世代は、金銭ではない報酬(社風・従業員満足度等)に重きを置く傾向があり、風通しの良い企業や従業員満足度が高い企業に就職・転職しています。ピアボーナスを導入することで、ミレニアル世代とZ世代の求める価値観にマッチさせ、企業としての魅力はもちろん、入社後の若手世代の定着させることができます。
4.優秀な従業員の流出を防ぐ
これまでの一般的な人事評価制度は、売上目標の達成率などの定量的な成果や、上司から見た仕事ぶりで評価が下されることが多く、定性的な成果や直接業績に直結しない行動は評価されにくい傾向にありました。この評価制度では、上司と部下の間には評価に対するギャップが生まれ、短期的な側面ばかり評価されてしまい、近視眼的なマネジメントしかできませんでした。また、従業員満足度やモチベーションの低下を招くリスクもあります。
ピアボーナスを導入することで、顧客満足度を向上させるための取り組みや業務効率の改善などの、なかなか表面化しにくい成果が評価されやすくなります。様々な仕事の成果にスポットを当てることで、従業員の満足度を向上させ、離職率の低下・優秀な人材の流出防止につながります。
ピアボーナスのデメリット
1.仕組みを導入するためのコストがかかる
ピアボーナスを運用するために外部のサービスを導入すると、イニシャルコストとランニングコストがかかります。また、直接金銭を報酬としてやり取りする場合は、原資を用意しなければなりません。会社が負担するコストがある分、効果についてはしっかり判断する必要があります。
2.従業員同士で評価を行うため、導入後の運用設計が必要
目立つ従業員ばかりに報酬が集まると、不平が発生するリスクがあります。見えないところで事業を支えている従業員(事務補助・受付スタッフや、警備員・清掃スタッフ等)にもスポットライトが当たるよう対策が必要です。
3.上層部の理解が得られず継続性がない
ビアボーナスの運用を開始する際に最も問題になるのは、導入を決めた経営者は必要性を感じていたとしても、その他の上層部が必要と感じていないことです。ピアボーナスという文化、つまりは誰かを素直に褒めるという文化に慣れていないため「本当にこの制度が必要なのか?」と経営者が交代したあとにコストカットの対象になりやすくなります。
まとめ
経営者が仕組みを導入しただけでは、うまく活用されずにただのコスト部門に成り下がってしまう可能性もあります。
しかし、目的・目標・手段を明確にしたうえでピアボーナスを支えるチーム(若手職員中心)がいれば、それぞれの企業の文化に合った進化をすることができます。
そこから企業文化としてピアボーナスが根付いていくことで、従業員満足度の向上・離職率の低下・仕事の質向上等々が好循環になり、顧客・組織・従業員にとって「三方良し」の文化になり得ることでしょう。